第10回:楽して儲けるスタイル?

リン: あ。無一文というと、そろそろ渡辺さん自身のことに入ろうかな、と思いますが。なんと言えばいいのだろう、今までは……えっと、どれくらいしゃべったんですか、一時間ぐらい?一時間以上もしゃべってて、まだ渡辺さんが素性不明なんですよ。
渡辺: あ、すみません。
リン: 日本語のわかる方はまあGoogleWikipediaを調べばたくさん出ると思いますが、中国語しかできない読者にとっては、このずっとしゃべってた人は誰だということになってるはずですけど。発表時はちゃんと横にプロフィールを載せるので、基本的にそれは問題ないと思いますが。でもやはりちょっと触れた方がいいと思います。
渡辺: 自己紹介をさせて頂くと、基本的には文章を書く、小説を書くのが仕事で、台湾や香港でも、小説や原作コミックを何冊か発刊して頂いています。
プラトニックチェーン〈01〉

プラトニックチェーン〈01〉

プラトニックチェーン 01 (Gファンタジーコミックス)

プラトニックチェーン 01 (Gファンタジーコミックス)

中国語圏は主に『プラトニック・チェーン』シリーズが発刊されてます。
もっと詳しい情報はkoboさんの運営する「W-Cat渡辺浩弐データベース」でいろいろと見れます。
この間はなんと海外版をコンプリートしました。すごいです(リン)

もともとはゲームの世界で仕事をしていまして。1980年代中期の日本のゲーム産業の萌芽期、つまりファミコンのブームの頃から、ゲーム関係のライター、評論家、ないしゲーム自体の制作者として仕事をしてきました。
今は小説の仕事が多いのですが、自分の会社(GTV)ではデジタルコンテンツの制作もしますし、まあ、要するに何でも屋さん。
ニコ動でチャンネルを開設しました
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リン: 本を読んで面白いと思うのはね、会社に入った経験ありますかっていうか、そういう質問あったんじゃないんですか。小さなタイトルは「楽して儲けるスタイル」って。いやあそれはもう台湾人にとって非常に魅力的なんですよ!その話を少し、詳しく聞いていただきたいですね。
ひらきこもりのすすめ2.0 (講談社BOX)

ひらきこもりのすすめ2.0 (講談社BOX)

「本」というのはこの本です(リン)

渡辺: 僕は1962年生まれなので、20才になった時に1982年、22才、23才のあたり、つまり普通の人だと大学卒業して就職活動をするという頃が、日本ではファミコンが発売されたり、街にゲームセンターが増えたりしていた時機で。学校にも行かず就職もせずに、毎日15時間くらいゲームをやっていたわけです。
その後ゲームが爆発的なブームになって、ゲーム周辺のメディアも好景気に湧いたんですね。専門誌が続々と創刊されたり、一般の雑誌にもゲームのコーナーが儲けられるようになったり。けれどゲームについての文章を書ける人間が、いや、そもそもゲームについて知っている大人の数が少なかった、というだけの理由で、仕事が入りだしたんですね。
がんばれば一日20万〜30万円稼げるような割のいい仕事ばかりだったんで、そのお金でマンションの部屋を借りて、そこにはゲーム機とモニターを並べたんです。家庭用のゲーム機が各社から次々と登場していた頃で、これを揃えればゲームセンターのように楽しい空間ができるだろうという発想でした。
それで雑誌やテレビの業界のゲーム好き、あるいはゲームメーカーの人が集まるようになったんですね。仕事をサボってはその空間に立ち寄り、あれこれ喋ってはゲームを遊ぶようになった。
その面子のおかげで自然と情報が集まってくるし、仕事もますます入ってくるようになったんです。
リン: ゲームバブル、実際もバブルだし。そんな時代ですね。
渡辺: そうそう。マニアの「好き」のエネルギーが仕事になったのは、萌芽期のゲーム業界ならではのことで、それはとても幸運だったわけです。
けどね、今なら、他の領域でもこういうやり方ができるんじゃないかと思うんですね。今後、あらゆるコンテンツは、マニアが制作し、マニアが広報し、マニアが享受するものになっていくわけですから。
そして、マニアのたまり場は、今ならマンションを借りる必要はないんです。インターネット上にホームページを開けばそれで十分なんですね。
リン: 80年代でライターの仕事、80年代だけではなく、90年代前半でも、ファクシミリ一台、コピー機一台でものすごい高かったんじゃないんですか。自分が高校時代、コピー機の値段を知った時、いつ買えるのかと思った時期があったんですよ。
渡辺: そうなんですよ。僕は最初、50ヶ月ローンを組みましたね。
リン: ファックスのみで!?
渡辺: ファックスと、コピーと、ワープロで。遊び場だったマンションにそれ並べてやっと、会社の「ふり」をすることができた。そうしないと、ちゃんとした企業の仕事は受けられなかったんです。今は、自分の四畳半の部屋でもSOHOとして、ホームページ開いて仕事募集できるじゃないんですか。
今ならファックス、コピー、ワープロを足して100倍にしたようなことが、iPhone1台で、できちゃうわけですね。
リン: そうですね。プリントアウトだけできないっていう感じですね。
渡辺: 20年前の何百分の一のコストで、起業できちゃうんです。
リン: その時はライター、ゲーム雑誌が、日本でゲーム雑誌がいっぱい創刊して、ライターの仕事で書き続けて……
渡辺: 執筆やTV出演の依頼だけでなく、そのうちゲーム関連のCMや攻略ビデオの制作、あるいはゲームそのものの制作まで、頼まれるようになったんです。たまり場の面子にはフリーのプログラマーやディレクターもいたから、相談して、受けられることは受けました。そういう場所が、今の会社の元になったんです。
リン: なるほど。でも、今ご自分で会社持ってるんですけど、就職経験のないことは、何が影響とかあるのでしょうか?
渡辺: 小説とかを書いていると、一般的な会社の中はどうなってるとか、人間関係はどうなってるのかとかですね、根本的なことがすごく知りたくなることもあります。だから、作家志望の若い人でも、試しに、例えば、その世界を勉強するためでけに企業に就職してみるってのもアリだと思いますね。
リン: なるほど。またそういう話に持っていくんだ……まあ、多少ね、なんか「組織」に対する、まあ小説も含めて、渡辺さんの作品は「組織」に対する敵意か、なんかしら……ん……わかんない、どう言えばいいのだろう。
渡辺: あー、はい。それはね、ありますよ。古い組織に対する敵意は。
リン: コンプレックス……でもないんですが、コンプレックス……敵意でも捉えて、憧れでも捉える何かが、多少入ってるね。


【つづく】


渡辺浩弐×林依俐 
対談・「宅」の密室からつなぎ合う世界へ
次回「教育はどう変わる」は
2009年7月2日更新予定です
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